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「塩浜工場まつり」で並んだ1400形・1940形・リニューアルした野犬3号。1400形は4Qチョッパ装置が不調なため、この塩浜祭りが最後のお披露目になる予定だった
■1400形ブレークダウン!

 1400形は5月にコントの故障から運用を離れ、塩浜工場に留置されていた。本当なら2023年度の引退までの間にお別れ運転のひとつもやって華々しくフィナーレを飾ろうと思っており、3月にはデビュー当初の塗装を模したラッピングまで施して花道を飾ろうとしていた矢先だった
 2023年5月20日20時30分ごろ、赤間神宮前発塩浜行き準急の運用についていた1400形。観音崎駅直後の25km/h制限のSカーブに差し掛かるため、運転士がブレーキをかけたところ、LOV(ロックアウトバルブ)が開いて空気ブレーキが作動した。時間的に回生失効を起こすような列車密度でもなく、事実当該列車の3分後ろを普通車が走行していたし、5分前にも普通車が動いている。これだけ走っていて回生失効はあり得ない
 その後25km/h制限区間で1ノッチを投入し速度を保持しようとしたがマスコンを投入してもモータが通電せず、再加速ができない状態となり、入江駅手前で列車は停止。再起動するも通電は回復せず、前途運行を中止せざるを得なくなってしまった。結局後続の普通車に救援を要請し、いったん下関中線に収容。終電後に塩浜工場へ搬入した
 コントを調べると、サイリスタがアバランチ・ブレークダウンを起こしており、どうやら回生ブレーキをかけた際にサージが流れ、素子破壊を引き起こしたものと推測された
 コントの半導体トラブルは塩浜工場の手におえない。すでに4Qチョッパの予備部品も枯渇していたため、このまま廃車にするのが妥当なところだろう
 しかし、1400形は彦電の歴史の中でも数奇な運命をたどった列車だ。登場時は現場にあまり歓迎されず、1400形に改造された後も特殊な制御装置ゆえに他車との連結ができず運用に制限が設けられ本来の活躍ができたとは言えない。その上最後が故障でフェードアウトとなればあまりにもかわいそうではないか!
 なんとか修理して、お別れ運転はできないものだろうか
 今回故障したのは4Qチョッパのコントのどこか、ということで塩浜工場で通電試験を行ってみたところ、下り方向は力行も制動も動作せず、上り方向は問題なく動いた。つまり塩浜駅から下関方面に発車することはできるが、帰ってこれないというわけだ
 ここから推測するに正回転・力行のスイッチとダイオードがブレークダウンを起こしたことが推測される。もうちょっと専門的に言うと4Qチョッパのスイッチ3もしくはスイッチ2が死んだということだ
 ならばこの部品を交換すればいいのではとなるが、ダイオードはともかくスイッチング素子は30年以上前の製品でいまさら新製品など存在しない。東洋電機に問い合わせてみたが当然ストックなど用意していない。東洋電機も「日車さんがVONAで4Qやってましたからちょっと聞いてみますけど、あまり期待しないほうがいいと思いますよ」と、難しい表情を浮かべていた
 かといって4Qチョッパを運用している他社に部品を分けてもらおうにも、現状4Qチョッパの電車を走らせているのがアストラムラインだけ。しかもコントは三菱電機の担当だった。東洋電機も「モータやSIVなどはうちが納品しているんですが、コントだけ三菱さんなんですよねえ」と何とも言えない表情をしていたのだった
 こうなると営業線でのラストランは諦めるほかなかった。上り方向のダイオードと素子は生きているので、車庫内で片道だけでもでも運転できればいいか、と彦電は考えていた
 そうはいっても最後まで数奇な運命をたどった1400形に対し、せめてその「生きた証」を後世に伝えようと当時日本車両で製造中の1940形の車体色を1400形を模したものにすることにした。ふがいない最後にさせてしまった塩浜工場のせめてもの誠意といったところだろうか
 日本車両には「かくかくしかじかそういうわけで申し訳ないのですが」とカラーリングの変更をお願いし、この話はいったんここで終わりになるはずだった
黄色の55芯ケーブルでつながれた1400形と1940形。ECBの指令線とノッチ指令さえつながっていればとりあえず1940形と協調運転が可能と東洋電機は判断した(MRは密連に組み込まれたホースで接続できる)
■謎のコネクタ

 2023年8月、1940形が日本車両から納車された
 下関駅から江の浦車庫まで30形入換機関車で輸送。ここで受け取り検査を行うのだが、台枠を確認中に塩浜工場の人間が違和感に気づいた
 「ブレーキ指令線にコネクタがついてるんですが…」
 日本車両の係員と床下をのぞき込むと、ECBの指令線が運転台直下で二股に分かれ、片方は電連へ、もう片方は宙ぶらりんの55芯ジャンパコネクタがついていた。
 「これは何でしょうか? 仕様にはなかったと思うんですが」
 彦電の担当者が日車の担当者に聞いた
 「甲種輸送の際に読み替え装置を指令線につなぐためのコネクタですね。最近はECBの電車ばかりですから読替装置をつける際の便宜を図ってこうしたんじゃないかと思います」
 日本車両の担当者はとぼけたようなわざとらしい口調で答え、つづけた
 「まあ、このコネクタ残しておけばたとえばですよ? 電連のない電車の救援の際、このコネクタで相手の指令線とつなげば救援が楽になるんじゃないかと……と言っても御社で電連のない電車って1400形だけでしたっけ。あまり意味がないかもしれませんねえ」
 「まあ塩浜工場さんにこんなこと言っても釈迦に説法ですが、1400形の指令線にくっつけて分配すれば1400形と1940形が連結できるかも、なんてことはわたしの口からは言えませんがまあ、忘れてください。とりあえず55芯コネクタの予備置いておきますね。あ、そうそう、ピン7はGNDしてますから※」
 それを聞いて東洋電機の担当者が白々しく口をはさんできた
 「そういえば1400形って電連設置の準備工事で、55芯のコネクタが連結器の裏についていましたよね。設計担当に昔『なにこれ』って聞いたのを思い出しました」
 彦電の担当者が1400形の台枠をのぞき込むと確かにそこには電連につなげるための55芯ジャンパ栓が鎮座していた
 実は彦電が東洋電機に話を持ち掛けたとき、東洋電機側としてもできることはないだろうかといろいろ調べたようだ。その際1400形に改造する際の仕様に「電気連結器の準備工事」の項目を見つけ、日本車両に艤装の変更をお願いしたようだ
 こんな越権行為は、ほかの鉄道会社なら出禁に等しい狼藉だ。しかしここは彦島電鉄。本州の最果てにある小さな小さな鉄道会社だ。担当者が「気が付かなければ」それで素通りしてしまう、そんな雑な会社だった
 「すいません。ちょっと10分前の記憶がなくなってしまいました」
 彦電の担当者はそういって、日車と東洋の担当者に深々と頭を下げた
 「歳をとるとそういうものですよ。わたしも10分前のことが思い出せません」
 東洋電機の担当者も笑いながら答えた
 「まあ、思い出せないということはそこまでたいしたことではないんですよきっと。とりあえず受領検査OKってことでよろしいでしょうか」
1400形のさよなら運転は1940形との併結で塩浜〜下関間で行われた。往路は1400形の4Qチョッパを力行のみ作動させて運転。帰路はCCOSを開放し、1940形のモータのみで走行した。なお、ブレーキはLOVが開放されているので1400形の空気ブレーキは問題なく作動する
■何事もなかったように

 日本車両の担当者はそういって受領書を差し出した
 2023年11月12日、1400形と1920形を併結したおわかれ列車が塩浜工場を発車した。往路は1400形の4Qチョッパを活かして下関へ、帰路は1400形のCCOSを開放して、1940形のモータのみで走行した。往路だけでもやはり1400形の力で走りたかったというのが塩浜工場の正直な気持ちだった
 いずれにせよ1400形にとっては最初で最後の4両つなぎでの運転、イベント的には最古参と最新型の併結運転と塩浜工場もファンも楽しめたということで万々歳というところだろうか
 このさよなら運転をもって、1400形は事実上の引退となる。車籍自体は2023年度いっぱいまで残る予定ではあるが、1940形も運用に入っている現在車両運用数から言っても1400形が登板することはありえない
 おつかれさまでした
 
  ※電連のピン7をGNDすると低加速モードとなり、A速度列車の加速力2.54km/h/sになる

 
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